研究概要 Research

1. ロタウイルスの遺伝子組換え技術を利用したウイルス感染の分子メカニズム解明

ロタウイルス(Rotavirus)は、乳幼児に重篤な急性胃腸炎を引き起こす代表的な腸管ウイルスであり、現在でも世界的に大きな公衆衛生課題となっています。
私たちはこれまでに世界初となるロタウイルス遺伝子操作系を構築し、任意の遺伝子変異を持つ組換えウイルスの作出に成功しています(図1)。
特定の遺伝子変異を導入した組換えロタウイルスは培養細胞での増殖性やマウスでの病原性が変化することがあり、
このようにして遺伝子変異が表現型に与える影響を明らかにすることが出来ます。

2. 腸管ウイルスの感染性を規定する腸内環境の研究

近年、腸管内の常在菌である腸内細菌がヒトの消化や栄養吸収に関わるだけでなく正常な免疫系の発達と維持、病原体の排除、さらには代謝調節や神経系との相互作用にも関与するなど、全身の健康において重要な役割を担っていることが明らかにされている。これまでの定説では、腸内細菌叢の攪乱(dysbiosis)により免疫系や腸管粘膜におけるバリア機能が低下し、病原体への防御能が低下すると考えられていたが、近年の研究では、腸管ウイルスの感染成立にも正常な腸内細菌叢が必要であることが示されている(図2)。当研究室では抗生物質を用いて人工的に腸内細菌叢を改変したマウスモデルを利用し、ウイルス感染成立に必要な腸内環境の探索を試みている。

3. ネルソンベイレオウイルス(Nelson Bay reovirus)のフィールド調査

ネルソンベイレオウイルスは東南アジアを中心に記録されており、自然宿主であるコウモリからヒトに感染することが知られています。我々の研究室ではマレーシア大学の研究者と共同でフィールド調査を行っており、ボルネオ島の熱帯雨林に生息するコウモリのサンプルから、ウイルスや抗体の検出を試みています。

4. マイナス鎖一本鎖RNAウイルスに関する研究

マイナス鎖一本鎖RNAウイルスの増殖機構・病原性発現機構を研究しています。非分節のパラミクソウイルス科、3分節のナイロウイルス科、8分節のオルソミクソウイルス科のウイルスを対象としています。パラミクソウイルス科には臨床的に問題となっているムンプスウイルス、麻疹ウイルスやパラインフルエンザウイルス1~4型、センダイウイルスなどが含まれています。また、極めて病原性の高い新興感染症のニパウイルスなども含まれています。我々はプロトタイプであるヒトパラインフルエンザウイルス2型やセンダイウイルスを使って、ウイルスが細胞に侵入し、増殖し、病気を起こすメカニズムを分子レベルで解明しようとしています。オルソミクソウイルス科のA型インフルエンザウイルスは同じように呼吸器感染症を起こしますが、ゲノムは8分節に分かれており、増殖機構にも様々な違いがあります。また、ダニによって媒介される3分節のナイロウイルス科のハザラウイルスの研究も開始しました。このウイルスは極めて病原性の高いクリミア・コンゴ出血熱ウイルスのモデルとして最適であり、安全に様々な研究を進める事が出来ます。様々なウイルスの相違点、共通点を詳細に研究する事によって、マイナス鎖RNAウイルス全般にわたる分子レベルでの解明を目標としています。

ウイルスは生きた細胞に感染し、細胞の持っている様々な能力を活用して子孫ウイルス粒子を産生します。一方、細胞には、ウイルス感染に備えて極めて高度な抗ウイルス機構が備わっています。つまり、ウイルスが子孫を残すためには宿主細胞の持つ様々な防御機構を回避しながら、細胞の様々な機能を利用する必要があります。そこで、ウイルスゲノムやウイルス構成蛋白と関連する宿主蛋白との相互作用を明らかにし、宿主細胞免疫機構に如何に対抗しているのか、あるいは、ウイルス増殖に如何に宿主因子を利用しているのか、そのメカニズムの詳細な解明を目指しています。我々はReverse genetics systemを確立し、ミニゲノム系やリコンビナントウイルスを作製し、様々な成果をあげています。また、ウイルスの病原性、ウイルスの複製及び細胞の相互作用の解析を進めるため、研究に不可欠なモノクローナル抗体も作製しています。これらの基礎的な研究は、今後の新しい治療薬やワクチン開発に大変重要です。

数々の研究の成果が認められ、太田先生と松本先生は共に和歌山医学会の古武賞、本学の若手研究奨励賞に選ばれています。